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2010/11/21

ムダを省く効用

ビジネスでよく耳にする評語「バリューを上げよ」。何か付け足す方向に流れがちだが、価値を生まないムダを省くのも極めて有効な手段。今回は、一流の視点を紹介・・・

  • 岡部騎手いわく、「武豊騎手の最大の武器はミスをしないこと。騎手は、レース中に判断ミスを含めよくミスをする。単純な話、ミスをしないことが勝利への近道。そのため、加点法ではなく減点法で考えるのが適している。無敗の三冠馬ルドルフの育成方針も含め、何をすればプラスになるかより、マイナスに作用しそうなことをいかに省くかが重要。」
  • 羽生義治 棋士いわく、「将棋とは、マイナスの手ばかり。この手をやるとマイナス10点、あれはマイナス50点、別の手だとマイナス100点というゲーム。ミスを犯してしまうのはしかたない。だから、マイナスになる手を指さなくなるだけでもかなり強くなる。」
  • 谷川浩司 棋士いわく、「全ての手を読むなんてできない。90%以上の手は考えないで捨てる。直感的に選んだ3-5通りくらいの手を深く読んでいく。」
  • 相場の格言いわく、「半分損したら、それを取り返すには2倍にしなければならない。」
  • 耶律楚材いわく、「一利を興すは一害を除くにしかず、一事を生かすは一事を減らすにしかず」。一つの良いこと新しいことをやるよりは、一つの悪いこと不要になったものを取り除いていく方が効果的。
  • トヨタ生産方式の発明者 大野耐一氏いわく、「顧客の注文を受けてから現金を手にするまでの時間の流れを見て、付加価値を生まないムダを取り除くことで、その時間の流れを短縮する。作業工程を改善する場合、付加価値を生みだす生産設備をいじくりがちだが、付加価値を生む行程の割合は通常、非常に小さいので、その部分を改善しても大した効果はでない。付加価値を生まないムダを排除するという、もっと大きな改善チャンスに多くの人は気づかない。」
  • 安岡先生いわく、「われわれの欲望というものは陽です。対する内省、反省というものは陰であります。欲望がなければ活動がないわけですから、欲望はさかんでなければなりませんが、さかんであればあるほど内省というものが強く要求されます。内省のない欲望は邪欲であります。内省という陰の働きは、『省みる』という意味と『省く』という意味があります。内省すれば必ずよけいなものを省き、陽の整理を行い陰の結ぶ力を充実いたします。人間の存在や活動は省の一字に帰するともいわれる所以であります。この省の字は、『かえりみ』『はぶく』と読み、解釈しなければなりません。どちらか一方では半分落ち。」

ムダを省く逆説的発想

  • マキャベリいわく、「天国に行くのに最も有効な方法は、地獄へ行く道を熟知することである」
  • 名将 森祇晶 元西武監督いわく、「努力して先が読めるようになれば、成功は間違いなしというより、むしろ努力すれば大きな失敗は免れる、連敗は防げるということを信じたい。努力には失敗に備える保険のような側面がある。」

2010/11/14

長期的視点

前回の「大局観」に続き、このブログの切り口であり目の付け所でもある「長期的視点」。今回はその本質について、一流の目線を紹介。長期的視点とは・・・
  • 古田敦也 名捕手いわく、「例えば松井選手のような打者には、外角低めなど長打されないコースに投げたい。でも、強打者ほどその辺の嗅覚が優れていて、『このピッチャーならこのへんしか投げれんやろ』とすぐ嗅ぎ当てる。そうなると、そのピッチャーは絶対勝てない。だから、たとえ二流の投手でも一流の打者に勝とうと思ったら、打たれてもいいからベースいっぱい使って投げないといけない。時には相手のホームランコースにも飛び込み、相手を混乱させなければいけない。だだ、飛び込むにもコツがある。ホームランを打たれても構わない場面で、わざと投げる。そうすると、5割くらいの確率で打たれる。一方、絶対に点をやれない場面では、別の球を投げはずす。いざという時に打者の裏をかいてホームランを打たれないようにするには、普段からそういうことを仕掛けておかねばならない。一回負けたら終わりというトーナメント制なら怖くてできないけど、年間140試合でトータル何勝できるかというペナントレースでは、仮に3割以上打たれても肝心なところでは打たれなかったらOKとか、長期的視点で勝負を仕掛けないと勝てない。」
  • イチロー選手いわく、「決め球を打っていくことは難しいけど、打てなくてもその姿勢を見せることは、相手を考えさせることにつながる。打てれば相手は、コイツは何を考えているんだろうとパニックになる。長いペナントレースでの戦いにおいて、決め球を打つことは大事。」
  • 名将 森祇晶 元西武監督いわく、「人生の基本は1勝1敗。これにいくつの勝ちを上乗せできるか、どうプラスアルファをつけるかで本当の勝負は決まる。私の野球観の基本は、2勝1敗。西武がぶっちぎりで優勝したときですら、81勝45敗4分の勝率0.643。7割・8割を目指すと高望み過ぎ、ほどほどでいいと気を抜けばすぐに4割台へ。3連敗したら4連勝で取り返せとゲキを飛ばすより、2勝1敗のペースでいこうと考える。仮に戦力を集中して6連戦全てに勝っても、無理がたたって2勝4敗ということになれば同じこと。ムダ・ムラ・ムリのダラリをなくし、ブレを少なくする。勝ったり負けたりを繰り返して、最後に勝ちが負けを上回っていればいい。いや、上回るようにあらかじめ計算しておいて、目先の負けにこだわらない。マラソンランナーが、少し高めにペースを設定して、それを守りながら走るのに近いかもしれない。少し高めの目標設定を自分に課し、トータルで目標に近いところにいればそれで良しとする生き方の方が、遠くまで行けるのではないか。負けを織り込んでもペースを守り抜く。肝心なのは勝利よりも勝率、勝率とは負けを織り込むこと。ムリをしてまで達成しなければならない目標は、目標ではなく欲、それも大欲の部類。」
  • 名伯楽 藤澤和雄 調教師いわく、「欲張りだから勝ちたいのは世界一勝ちたい。しかし、その場しのぎばかりでは、永遠に変わらない。ただ勝つことに意味はない。一勝よりも一生! ひとつ勝つことよりも一生続ける」・・・その至言の背景には、将来のダービー馬と期待された若き有力馬の安楽死がある。若かりしころ、まだ有力馬がほとんどいない藤澤さんのもとに、「ヤマトダマシイ」という良血の有力馬がやってきた。デビュー戦は圧勝。スポーツ紙にも異例のダービー候補と記事が出るほど注目を集めており、藤澤さんもダービーで行けるとスケジュールを組んだ。しかし、次のレース中にヤマトダマシイは骨折。手術をしても助かる見込みがないと安楽死処分へ。
  • 石井裕 MIT教授いわく、「私はよく『2200年』という未来を軸にしてモノを考える。『2200年』に生きている人類に、私たちは何を残すのか、どう思い出されたいのか。そこまで考えると、本質的なことをやらなければならないことに、誰もが気づくはず。一過性の、すぐに廃れてしまうようなものばかり作ってもしょうがないのです。」
  • マキャベリいわく、「両者のうちどちらかが欠けざるを得ない場合には、愛されるよりも恐れられる方がはるかに安全である」。短期的にはとても有効な恐怖政治だが、歴史でみても長期的にはかなり高い確率で破綻する。そういう意味で、短期思考の逆説的戒め とも解釈。
  • 50歳を超えたチンギス・ハンが20代の若者に一目ぼれ、後に宰相となった耶律楚材(ヤリツソザイ)いわく、「一利を興すは一害を除くにしかず、一事を生かすは一事を減らすにしかず」。一つの良いこと新しいことをやるよりは、一つの悪いこと不要になったものを取り除いていく方が効果的、という意味。その際、剪定と同じように、理想的・長期的な姿をイメージしたうえで木の生長にとって大切な肝となるところまでも切り取ってはいけないよ、長期的視点から陰陽のバランスをとりなさい、という意味。
  • 二宮金次郎いわく、「(丸い風呂に入りながら村人に教えた場面) 自分の利益ばかり考えている者は、風呂のお湯を、しきりと手前へかき寄せているのと同じ。一時は自分の方へお湯が寄ってくるが、すぐに脇をすり抜けて向こう側へ流れていってしまう。結局、自分も恵まれることがない。これと反対に、常に相手のためを思い、自分の持っているものを与えようとする人は、お湯を向こう側へ押しやるのと同じだ。そのお湯は向こうへ行くように見えるが、実際には、ぐるっと回って自分の方へ返ってくる。相手も喜び、自分も恵まれることになる。自分さえよければいいという我利我利の心を捨てて、自利利他の心を持ちなさい。」

2010/11/07

大局観

車の運転では、初心者ほど視点は近く、うまくなるにつれて遠くが見えるようになり、運転も安定する。ブレーキを踏む場合でも、前方との衝突を避けるため我々は後方を確認せず躊躇せずに踏み込むが、F1ドライバー レベルになると、後ろから追突されないか、サイドミラーやバックミラーなどを駆使して立体的に判断する。そして超一流レベルになると、勘どころとして 走るべきラインが見えたり、追い抜くタイミング、いわゆる時流が分かるという。

今回は、このブログの切り口であり目の付け所でもある「大局観」。その本質について・・・

大局観とは
1) 把握の仕方: 局面全体 + 時流
将棋を例にすると初心者は、駒を一つ一つ認識。アマチュア初段の中級レベルは、矢倉囲いや4六銀型など部分的な塊として認識。プロレベルの上級者では、局面全体を一瞬で判断。トッププロは、流れで形成を判断。レベルがあがるにつれ、点-> 線-> 面-> 空間(流れ) というように碁盤全体だけでなく、「どういう展開でその局面に至り、このあと何が起こるか」も考慮に入れ、時流という碁盤の流れ、時間軸を伴った時空間で把握。

2) 時流の中身: 逆算 vs. 順算
初心者は、飛車や角をとるにはどうしたらいいかなど目標を設定して、そこから指し手を考える「逆算」型。一方、プロはある局面を見た瞬間、その局面が大局の中のどのような状態かすぐに分かって、どうしたらいいか結論が浮かぶ「順算」型。

大局観の本質: 時の本流を見抜く力
「順算」型の判断をするには、時流という碁盤の流れを把握することが先決。再度、一流の目線に立つと、大局観の本質とは、「時の本流を見抜く力」。その最適な参考書が以前ふれた易経。
  • 古田敦也 名捕手いわく、「敵との駆け引きに没頭していると、味方がみえないことがある。例えばダブルプレイを狙って注文どおり内野ゴロに打ち取ったはずが、打球の方向を追うとそこには内野手がいなかった。キャッチャーは、常にグランド全体を見渡し、チーム全員の動きに気を配りながらプレーする必要がある。」
  • 臨床心理学者の河合隼雄 元文化庁長官いわく、「心理療法の現場で、患者はアルコール依存症と告げられたカウンセラーは、それが核心だと決めつけてしまい視野が限定的になるが、一流のカウンセラーは全てに平等の注意を払いながら『ぼーっと聴く』。大事なのは、何か一つの方向に収斂していくような集中の仕方ではなく、方向性を全て捨てた集中力。フロイトいわく、『平等に漂える注意力』。
  • オリックス 宮内会長いわく、「花の写真を撮る場合、花そのものにピントを合わせ、花を際立たせるように、競争に打ち勝つには、花そのもの、つまりコアビジネス・得意分野に特化するのがいい。しかし、経営者は日の当たり具合が変わったら、今は目立たない後ろの花が綺麗に輝くかもしれないとか、新しいカメラの性能なら向こうの花のほうが面白く写るかもかもしれないなど、めまぐるしく変わる天候や日進月歩で進化するカメラの性能なども考慮に入れて、周囲の風景にも注意を払う必要がある。だから私は、背景に関する情報をその道の専門家からできるだけ多く集めるようにしている。」
  • 羽生義治さんいわく、「若手は、簡単な一手を指すにも数百もの膨大な手を読んで指すが、ベテランは勘でパッと見当をつけて指す。パッパッと指す手には邪念がないから、基本的に悪くない。全体を判断する目、大局観、本質を見抜く力、ばらばらな知識のピースを連結させる知恵といってもいい。逆にいうと、余計な思考を省き、近道を発見するようなもの。その思考の基盤になるのが、勘、つまり直感力や感性。直感の7割は正しい。」
  • 惑星科学者 松井孝典さんいわく、「生物学というのは、現状では地球生物学にすぎない。今のところ、地球にしか存在しない特殊なものを対象にして研究している段階だから。生命が地球にしか存在しない特殊なものなら、生命の起源と進化は、おそらく将来も解けないだろう。宇宙において生命の普遍性を探るという視点、それが私の生命の起源と進化を考える基本スタンス。」
  • 宮本武蔵 五輪書いわく、「心眼で見る『観』で強く、目で見る『見』で弱く、遠いところを近くでありありと感じるように、近いところは遠くから大局をつかむように大きく広く見る。敵の太刀筋を悟り、太刀そのものは全く見ないことが兵法のツボ。」
  • 易経-風地観いわく、「風の地上を行くは観なり」。風があまねく吹き渡るのを観ることが洞察、洞察とは風を観ること。時は地上を吹き渡る風のように、常に変化して、流れ往き、目に見えず、言葉で聞くこともできない。しかし、人の言動や、世の中で起こる出来事、目に見える全てが、今はどういう時か、時はどこへ向かっているのかという法則性を示している。目に映るもの、体験する全てのことを通して時を知り、兆しを察すること。


    参考: 大局観の盲点 「鳥目」
    インコなど目が側面についている防御型の鳥は人間の視力の3-4倍、ワシやタカなどの攻撃型肉食鳥の視力は8-10倍といわれるが、その違いはどこから生まれたのか。それは、鳥が夜の世界を経ていないから。
    恐竜全盛時代、哺乳類は夜の世界、鳥類は空の世界へニッチを求めた。夜行生活を選択した哺乳類から昼の世界へ戻った霊長類は、弱い光をとらえる視細胞を強い光をとらえる視細胞へ変えて、明るい場所での視力を改善させた.
    一方、鳥はそんな必要はなかったので、強い光をとらえる視細胞を強化して、卓説した視力、大局観を得た。しかし、光の弱い闇の中では、鳥目になったとのこと。